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序章2節 水風船
お兄さんの手によって打ち上げられたそれは放物線を描き、
やがて地面へと吸い寄せられる。
落下の衝撃により形をへしゃげ、そして爆ぜた。
あたりには破片となった水風船と、小さな水たまりだけが残った。
そんな一輪の花の一生を見届けた僕の目は、同時にお兄さんの顔も追い続けていた。
水風船が爆ぜたその瞬間のお兄さんは、雲ひとつない青空のような笑顔を浮かべていた。
「そうれっ」
僕が感想を述べる間もなく、お兄さんはまた1つ手に取って放り投げた。
先ほどの勢いある上投げとは打って変わって、今度は軽く下投げで。
控えめな放物線を描いて、僕らのすぐ傍で爆ぜた。
「うわっ」
飛び散った水飛沫が僕を襲った。
正確には「僕とお兄さんを」なのだが、
お兄さんには「襲った」と言うより「掛かった」と言う方が適切だ。
身長差の都合で、僕は水沫を顔まで被った。
「あははははは」
お兄さんは声を上げて笑っていた。
傍から見れば僕は怒ってもいい状況だろう。
でも僕は、お兄さんと同じようにして笑った。
なぜなら、
――心がそうしたがっていたからだ。
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