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今日という日を、こんな形で迎えることになろうとは思いもしなかった。
正直かなり複雑な心境だけれども、想像以上に沢山の人が足を運んでくれたことについては感謝している。
家族、親戚、会社の同期に上席、学生時代からの友人。私が思いつく限りのお世話になった人たち全員が黒い喪服を身にまとって、一様に沈痛な面持ちをしていた。
その中には、先日、将来の仲を誓い合った恋人の黒田 正臣さんもいた。
人波をすり抜けて、深くうなだれて座る彼の目の前にしゃがみ込む。私の大好きなその顔は、今まで見たこともないぐらい、痛々しく濡れていた。
「碧……っ。どうして……? ずっと一緒だよって……約束、したばかりなのにっ」
嗚咽と共に吐き出されたその言葉に、失ったはずの心臓がじくりと痛んだ気がした。
「僕を、置いていかないで……」
正臣さん、私はここにいるよ。だから、泣かないで?
どれほど願っても、私の声は彼に届かない。
一つしか歳が変わらないのに随分と大人びている正臣さん。そんな彼が、人目も憚らず子どものように泣きじゃくっているのを前にしていながら、なんにもできない。できなくなってしまった。何度も手を伸ばしたけれど、虚しく宙を切ってすり抜けるばかりだ。
眼鏡の奥の、真っ赤に腫れているあなたの瞳に、決して私は映らない。
金輪際、永久に。
悔しくて、やるせなくて、哀しくって、ひどく中途半端な自分に苛立った。できることなら泣き出したかったけれど、涙すら流せなくなってしまった。
「……本日は、亡き碧のために、いろいろとお心遣いをいただき、誠にありがとうございました」
お父さんが、感情を抑えこみながら震える声で告げるのを聞いた時、ああ。私は本当に死んでしまったんだなって、今更のように思った。
そう。
二十五歳になったばかりの冬。
私、片岡 碧は、交通事故であっけなく死んだのだ。
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