Florists' war

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 そのあと春菜はすぐに花束を作り直した。社長の原田からの指示だった。「気付いていたら、直さなきゃダメだよ」と小声で叱られた。  春菜はそれを抱え、再び配達に出ようと店を出た。しかし驚くべきことに、なんと運転席に原田が乗っていた。 「一緒にいいかな?」  春菜は断れるはずもなく、花束を積んでから助手席に乗ろうとワゴン車の荷台のドアを開けた。 「……これも、配達ですか?」 「うん、君にね」  そこには真っ赤なバラの花束が置いてあった。  原田がエンジンを掛けた。  助手席に乗り込んだ春菜は「あの、どなたからですか?」と原田に聞いた。  原田は少し間を置くと、「玉ちゃんからだよ。御礼だってさ」と言って微笑んだ。 「玉井さんとお知り合いですか? あの、お元気ですか?」春菜は顔を輝かせた。 「うん。元気いっぱい。なんか、違う花屋に行ったらしいよ。懲りない人だよね」    配達先はお婆さんの家だった。誕生日の花束だった。息子からのプレゼントらしい。  しかし、差出人の苗字が違う。  原田が「おめでとうございます!」と満面の笑みで花束を渡すと、お婆さんは「ありがとう」と涙を浮かべて喜んだ。  これだ。この瞬間のために私は仕事を始めたんだ。春菜も思わずもらい泣きをした。玉井にもこの感動を、もっと知って欲しかった。  さすがだ。原田からは、仕事感が一切ない。まるで誕生日と聞いて祝福に駆けつけたような雰囲気を漂わせている。誕生日の花束だけで涙が見られることは、滅多にない。  お婆さんは言った。 「息子は婿に行ってね。それでも毎年誕生日には、ちゃんと花束をくれるのよ。何年経っても、苗字が変わっても、親子は親子だね。私は幸せだよ。あんた達も、親さんは大事にしなさいね」  「ええ、そうですね。私も、もっと親孝行しないといけませんね」  原田はそう言って微笑んだ。 〈終〉
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