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花屋の朝は早い。仕入れた花を開店までに店内に並べなくてはならない。葬儀や婚礼の納品、旅館や会社への生け込みもある。他にも店内の花の水換え、観葉植物や花鉢の手入れ、水やり、商品の配達、発送もある。
春菜の会社は、若手がそれを担う。忙しい。とても人手が足りてない。
ルールは無いが、上層部はそれをしない。遠方の配達に出向いたり、若手が手入れした花を花束やフラワーアレンジメントにしたりする。
何事も下積みは必要だ。しかし、それを忘れてはならない。斎藤や上層部の人間は、春菜の目には好きなこと、楽なことしか考えていないように映っていた。
「山本さん、これ発送ね」
水換えの最中に春菜の後輩が、なんとも品のない花束を渡して来た。斎藤と仲の良い田中だ。春菜は心の中で胡麻すり名人と呼んでいる。
良く見れば、ガーベラの中心が毛羽立ち、黒ずんでいる。
「これ、明日には腐るよ」
「あ、すいません。直しといてください」
ふざけるな。
直して良いなら、花の選択からやり直してやる。
「玉井さん、これ発送です」
春菜は作り直した花束を玉井に渡した。玉井はそれをマジマジと見つめると、「綺麗です」と笑ってくれた。
それだけで春菜の心は癒された。
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