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しかし現実はそう甘くはない。
入社して三ヶ月、玉井に成長の兆しは見えなかった。花屋は覚える事はもちろん、特に新入社員は力仕事も多い。
玉井は、ミスはしなかった。しかし、やはり体力面から会社の足を引っ張り続け、春菜はその度に斎藤達から「指導不足だ」と言われ続けた。
それは日を追う毎にエスカレートしていった。
「いつもすいません、山本さん」
「大丈夫。がんばりましょう、玉井さん」
そう言って玉井を励ましてはいたが、それは春菜にとっては辛い日々だった。
こけた頬に汗を流し、華奢な体で働く玉井は、度が過ぎるほど真面目だった。
真面目に働くのに結果が出ない。それは春菜の目には、光の届かない場所に置かれた花のように見えていた。水を掛ければ根腐れを起こすだけだ。あげなくても、どの道枯れていくだけだ。残念ながら、ここには光が無い。明るい場所へ連れて行く事もできない。玉井の努力が、花開く事はない。
腐るだけだ。
それならば、いっその事──。
「玉井さん、ちょっとお話があるのですが」
春菜は仕事終わりに玉井を呼び出した。今日は大規模な葬儀用の花の搬入があった。若手に負けまいと必死になる玉井の姿に、限界を感じていた。
春菜は花屋の常連であるスナックのママの店に行った。
ここならきっと、気兼ねなく話せるだろう。伝えなくてはならない。
はっきり言って、辞めるべきだ。
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