その顔のために

1/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「どうして、この仕事を選んだの?」 仕事終わりにそう尋ねると、新入りは一瞬きょとんとしてから、こう返してきた。 「それって、『こんなにキツくて辛くてしんどい仕事なのに』って意味が含まれてます?」 「まあ、そうだね。さらに、『尊敬されない』『お金も大して稼げない』も含まれるかな」 「・・・改めて考えると、エグイっすね」 新入りは、眉尻を下げて、ははっと笑う。しかし、すぐに、まじめな顔になった。 「確かにそうですけど・・・でも、誰かがやらないといけない仕事じゃないっすか」 今日の仕事もかなり大変なものだったせいか、疲労を隠せない表情で、それでもそう話す彼の瞳には、強い決意と意志が宿っていた。 「あえて言うなら、『顔』ですかね」 「顔?」 「仕事を依頼するお客さんも、ジブンでもできることを任せてくれるセンパイやみなさんも、みんな真剣な顔して、ジブンを見てくれる。うまくできたときには、笑顔になってくれる。そういう、求められている感じが、嬉しいんです」 なるほど、そういうことか。 「ジブン、そんなに取り柄もないんですけど。でも、この仕事なら、そんな奴でも必要だと求めてくれる。まだまだ見習いですし、毎日めっちゃ大変ですけど、なんとかいろいろ学んで、センパイのようにベテランの域になりたいっす」 「はは、僕なんか、見習っちゃいけないよ」 「いえっ、そんなことないっすよ! せっかくの機会ですから言わせてもらいますけど、ほんと、頼りにしてます。頑張って、センパイみたいになりたいんです」 うんうん、いいね。やっぱり若者は、こういう熱さを持っているやつがいい。 「そうか、ありがとう。じゃあ、明日からは、もっとたっぷり頑張ってもらおうために、仕事を倍くらい回してやろうかな」 「げ、いやいや、カンベンしてくださいよ! もうちょい手加減してもらえませんかねー?」 顔を引きつらせながら、新入りが冗談めかして笑う。 「そういうセンパイは、どうなんですか? なんでこの仕事、やってるんです?」 「そうだね。・・・きみとけっこう、似ているかもしれないな」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!