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「どうして、この仕事を選んだの?」
仕事終わりにそう尋ねると、新入りは一瞬きょとんとしてから、こう返してきた。
「それって、『こんなにキツくて辛くてしんどい仕事なのに』って意味が含まれてます?」
「まあ、そうだね。さらに、『尊敬されない』『お金も大して稼げない』も含まれるかな」
「・・・改めて考えると、エグイっすね」
新入りは、眉尻を下げて、ははっと笑う。しかし、すぐに、まじめな顔になった。
「確かにそうですけど・・・でも、誰かがやらないといけない仕事じゃないっすか」
今日の仕事もかなり大変なものだったせいか、疲労を隠せない表情で、それでもそう話す彼の瞳には、強い決意と意志が宿っていた。
「あえて言うなら、『顔』ですかね」
「顔?」
「仕事を依頼するお客さんも、ジブンでもできることを任せてくれるセンパイやみなさんも、みんな真剣な顔して、ジブンを見てくれる。うまくできたときには、笑顔になってくれる。そういう、求められている感じが、嬉しいんです」
なるほど、そういうことか。
「ジブン、そんなに取り柄もないんですけど。でも、この仕事なら、そんな奴でも必要だと求めてくれる。まだまだ見習いですし、毎日めっちゃ大変ですけど、なんとかいろいろ学んで、センパイのようにベテランの域になりたいっす」
「はは、僕なんか、見習っちゃいけないよ」
「いえっ、そんなことないっすよ! せっかくの機会ですから言わせてもらいますけど、ほんと、頼りにしてます。頑張って、センパイみたいになりたいんです」
うんうん、いいね。やっぱり若者は、こういう熱さを持っているやつがいい。
「そうか、ありがとう。じゃあ、明日からは、もっとたっぷり頑張ってもらおうために、仕事を倍くらい回してやろうかな」
「げ、いやいや、カンベンしてくださいよ! もうちょい手加減してもらえませんかねー?」
顔を引きつらせながら、新入りが冗談めかして笑う。
「そういうセンパイは、どうなんですか? なんでこの仕事、やってるんです?」
「そうだね。・・・きみとけっこう、似ているかもしれないな」
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