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どす黒い邪悪な悪霊は、境内の内部にみっしりと入り込み、まさに、この寺全体を包み込まんとしていた。 一体、何のつもりで、こんな悪霊が束になって押し寄せてきたのか、訳がわからなかったが、目の前に邪悪な悪霊がいる以上、それを祓い、退散させるしかあるまい。 私は少女を背後に匿い、悪霊と向き合った。 目の前にいる以上、私の力量がどれだけであろうと、いかに非力であろうが、全力で立ち向かうしかあるまい。 私はそう思って、かって悪霊祓いをやっていたのを思い出した。 私は、"大祓詞"の言霊を発しながら、悪霊退散に集中した。 本来、"祓う"というのは、罪や穢れを取り去り、清浄化することだ。 この"大祓詞"の言霊により、幾らかの罪や穢れを消滅させ、悪霊をただの霊に浄化することがある程度出来るが、中には言霊だけではどうしても浄化できない強力な悪霊もいる。 どす黒い邪悪な悪霊の渦は、最初、寺に入り込んできた時よりは随分と小さくなり、ほとんどの悪霊は浄化され消滅していたが、その核の部分に存する、悪霊の悪霊たる部分には、どうやら私の言霊は届かないようだった。 それでも私は、自分のやるべきことをやるのみだ。 もはや小振りになったとは言え、まだまだどす黒く蠢く悪霊の渦が、私と少女の方に迫ってきていて、いよいよ寺本体にまで入り込もうとしていた。 私はそれを"大祓詞"の言霊でなんとか食い止めようとしたが、そろそろ限界が来ているようだ。 だが本当は、私に限界などない… そう、私に生の限界などないのだ… そんなものを望むべく資格は、ない… 私はさらに何倍もの声の高さと大きさで、さらに"大祓詞"の言霊を何度も発し続けた。 "高天原に 神留まり坐す…" どす黒い悪霊の塊が、言霊に怯えて、ひるんでいるのは分かったが、しかし全く消滅する気配はなかった。 いよいよ万事休すか…
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