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揺れる 揺れる 頭の中がぐるぐるに掻き回されるような気分になる ひたすら視界が 渦を巻いたように 揺れ動き その瞬間、凄まじい豪音が響いた いつの間にか意識を失っていた…。 そう、 あの時、私は、 死ぬはずだった… この懐かしき顔の 人々と共に… 妻と娘と一緒に… 乗っていた旅客機は、天候不良と機体のアクシデントが重なって、急遽ぐるぐると旋回し続けた。 もはや、この飛行機が落下する事は目に見えていた。 私は妻と娘にシートベルトを強く締めるように再三告げて、自らも防御策を取った。 だがその防御策も虚しく、私も妻も娘も、乗客皆が、ドスンという激突の衝撃と共に機内で吹き飛ばされた。 揺れる 揺れる 頭の中がぐるぐるに掻き回されるような気分になる ひたすら視界が 渦を巻いたように 揺れ動き その瞬間、また凄まじい豪音が響いた その刹那、見知らぬ少女の顔が目の前にあったが… いつの間にか、私は、意識を失っていた…。 気がついた時には、私は病院のベッドの上だった。 しばらくは、何が何だか訳がわからなかったが、次第に、どうやら私は命が助かったらしいことがわかってきた。 だが私のベッドのそばに、妻も娘もやってくる事はなかった。 妻も娘も、そしてあの旅客機に乗っていた乗客全員が、もう何処にもいなかった。 もうこの世には、存在しなかった…。 それから私は、思えば、何だか知らぬうちに、生き長らえた… そんな気がする。 私に生の限界などない 生き長らえている資格など、私にはない 私だけが生き残ってしまったのだ。 何故私だけが、生き延びなければならないのか…。 何故、まだこれから長く輝かしき人生を送るはずだった娘が死ななければならないのか… 何故、私に献身的に接してくれていた妻が… それから私は、跡を継ぐことを頑なに拒み続けてきた住職の仕事に就いた。 住職として、日々神に祈りを捧げながら、私は、自分が生き長らえていることの自責の念とその罪悪感から逃れようとし続けたが、そんなことは決して出来なかった。 そのうち寺の中に、あの旅客機で死んだ人々の姿を見るようになった… その中には妻と娘もいた… 全員がただ何も言わず、私の方を見ていた。 それが毎日続いた。 あまりの怖ろしさから、私は、毎日震え上がって生き続けた。 そのうちに、父や母も亡くなり、私は、いよいよこの境内に、たった独りで取り残された。 何故、私だけが生き残ってしまったのだ… その罪悪の贖罪のつもりで、お祓いの業を行なっていた時代もあったが、現世御利益的なビジネスになることに、また罪悪感を感じた。 私に生の限界などない 生き長らえている資格など、私にはない… それからは、毎日、本堂で、朝の祈りを捧げた。 本来の住職の職務に無いものだが、長年の私だけの習慣となった。 ひたすら、 あの旅客機の事故で、私と一緒に死ぬはずだった人々と、妻と娘に、毎日祈りを捧げた。 そこから私の1日が始まった。 そうしないと私の1日は始まらなかった…。 長年の習慣で、私の生活はそうなっていった。 それからはしばらく、妻や娘や、死んだ人々の顔や姿を、もう見なくなったのだが… 今、目の前にいる、不気味な大量の傘の群れの内部に、あの懐かしい顔という顔が見えた。 妻と娘の顔も、そこにあった。 私は、妻と娘と、亡くなった人々の顔をはっきりと真正面から見据えた。 "いよいよ、私もそっちに行くことになりそうです…" と、そう口に出そうとした瞬間、不意に私の背後から声がした。 それは、あの匿った少女の声だった。 「あなたには、生きて、やらなくてはならない使命がある。皆さんは、そのことを伝えに来たのです」 少女は私に、そう言った。 その時、私は、少女の顔を改めてまじまじと凝視した。 思い出した… あのひたすら視界が 渦を巻いたように 揺れ動き 次の瞬間、凄まじい豪音が響いた刹那に見た、 それは、 あの、見知らぬ少女の顔だった… その後私は、意識を失ったのだった…。 「もう大丈夫です。皆があなたに力を貸しにやって来てくれました。私が御恩あるスカイアンブレラさんに乗って。あなたを護るガーディアンが。そして、あなたは、この世のガーディアンとして生き残ったのです」 少女はそう言った。 その時、目の前の懐かしい顔という顔が、私に至福の表情で微笑みかけた… ああ… なんという慈愛に満ちた 美しい顔と顔… 「いつでも、一緒だから」 不意に娘と妻が、あまりに神々しい微笑みを浮かべながら、私に優しくそう言った…。 目の前の大量の傘の群れは、どす黒い邪悪な悪霊の塊に激突を繰り返していたが、その力の原動力は、どうやら娘と妻や、亡くなった人々の魂の神通力によるものだった。 私も全力で、"大祓詞"の言霊を発し続けた。 それがたとえ 死を招こうとも 構わない 私に生の限界などない そんなことを言う資格は 私にはない いっそこのまま… いや、 違う。 私はこの生に踏み止まり、 全力で、"大祓詞"の言霊を発し続けるのだ。 妻や娘、そして亡くなった人々の 魂の言霊を、この現世で発現し続けるのだ。 それこそが、私が生き残った理由。 それこそが、妻や娘、亡くなった人々が、 私に託した使命…。 やがて、 どす黒い邪悪な悪霊の塊は、穢れが消滅し尽くし、ついには、ただの透明な霊となって浄化し、消えていった。 私は、その穢れが落ちた霊に祈りを捧げ、 全力で"大祓詞"の言霊を発し続けた。 かっては悪霊であった霊たちに 今こそ 未来永劫の幸あれ…。 気がつくと、いつの間か、あの夥しい数の傘の群れも、その内部にいた妻や娘や亡くなった人々の顔も、それどころか、私の後ろで匿っていたはずの少女すらもが、全て消えていた。 あの、この世のものとも思えない、美しき少女…。 あの天使のように美しい少女は、妻や娘、亡くなった人々の言霊を、私に伝えに来てくれたのではないか…。 旅客機の中で吹き飛ばされ、私が意識を失う瞬間にも、 少女は、 私の前に現れて、 "生きて使命を果たせ" と伝えていたのかもしれない…。 それこそが、娘と妻や、亡くなっていく人々の魂の遺言なのだ、と…。 「ガーディアン…か…」 私はそう独りごちたが、誰もいない境内に、その声は小さく響いただけだった。 でも、それでよかった。 私は、"独りではないのだから" スカイアンブレラ… あの少女は、不思議な傘の大群のことを、そう呼んだ。 確か前に、そんな都市伝説を聞いたことがある。 都市の高層ビル街の空を飛び交う、空飛ぶ傘=スカイアンブレラ。 ある時、人は、それを目撃することが出来る…。 私は本堂で祈りを捧げた。 本来住職の職務に無いものだが、長年の私だけの習慣になっていた。 この祈りを捧げた後、私の真新しき一日が始まる…。 (終)
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