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「ん? 論文、やんねーの?」
「今日はもういい。おそらく集中できないし」
大地はキッチンにすり抜けた芳野の背中をぼんやり見つめた。承知していた事とはいえ、芳野のリアクションはいつも薄い。まるで避けるような仕草が寂しかった。俺の情熱は暑苦しいのかと思いはしたが、それでも大地はじっとしていられなかった。
「芳野」
お茶を入れようとしている芳野を後ろから抱きしめる。芳野の体が一瞬竦んだ。できる限り優しく扱っているのに、芳野はいつもこの腕を恐れているように思える。
「……なあ、来たら迷惑だったか」
「なんで」
「お前、いつも嬉しそうじゃねえし」
言いながらぎゅっと腕を回す。芳野は急須に触れていた手を止めて大地に体重を預けた。
「スーツ姿に慣れない。俺は学生のままなのに大地だけ大人みたいだ。これ以上、牛乳をのんでも永遠に追いつけない気がする」
「なんで育とうとしてんだよ」
鳴たん挿絵裏話:https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=298
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