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あれから大地からの連絡が来ない。
出て行った時の跳ね除けるような拒絶の背中。
そんな態度は未だかつてなかった。高校時代から芳野はマイペースを貫いてきたが、大地はいつも大らかに笑ってくれていたのだ。
好きになったのも大地が先で、追いかけるのも常に大地だった。
芳野は糸の切れた凧のように漂っていて、気が向くとようやく近づいてくる。そんな受け身すぎる態度で二人の付き合いが成立したのは、ひとえに大地の愛ゆえであろう。
別に気にしてなんかいない。
そうは思いつつも、芳野は帰宅するたびにドアの前に大地を探した。
いや、そもそも平日に来るわけがない。
芳野はドアの前のいつもの押し問答を思い出しながら、一人、部屋に入る。
筋トレ用のダンベルや部屋着、歯ブラシやマグカップ。大地がこれまでおいて行った数々の物が、主を待ちわびているような気がした。携帯を確認しても着信の痕跡もない。
仕事が忙しいと言っていたからな。
言い訳のように核心の理由には触れないまま、毎日牛乳を買った。
確かにあの時、大地は『また来る』と言った。だから切らすわけにはいかない。
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