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うっはぁ。その頬っぺたの柔らかさは一瞬で大地を蕩かせた。
目をふせた芳野の顔を、下からすくうように覗き込む。おでこすれすれの近さになり、二人は一瞬黙った。
またしても芳野は硬直している。手に触れた肌がほんのり赤く染まり、唇は誘うように薄く開いてみえた。大地は顔を傾けた。その仕草は昨夜のキスの流れにあまりに似ており、芳野は反射的に顔をゆがめた。
「やっ!!」
「嫌?!」
まさかの拒絶だった。夢見る(だけの)一夜を過ごした大地の衝撃は計り知れない。だが芳野はさらにはっきりと言った。
「これ以上無理だ!」
「無理っ?!」
大地はオウムと化して反復する。情けないぐらい眉を下げた大地を突き飛ばし、芳野は前にすり抜けた。
「俺は出かける。はっ、初めからそれが楽しみで来たんだ!」
芳野は言い逃げして部屋を飛び出した。
大地の運動能力であれば、追いかければ十分芳野を捕まえられる。しかし、『嫌』と『無理』のダブルパンチに足が全く動かなかった。
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