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「アイツ事故っちゃって怪我して、実家なんだ今」
「……え?」
衝撃のあまり芳野の視界がリアルに暗くなった。まるで命綱のように携帯を握り締める。
「事故の詳細を説明しろ! 発生日時と怪我と状況は!」
「は、はいぃっ! 怪我は右手にヒビで命に別状はなし、お前んちからの帰りに事故って車は修理中です!」
「あの日か。なぜ俺に言わない」
「そりゃ言えばお前が気にするから」
「言わなくたって気になるだろう、馬鹿か!」
「ごもっともですー!」
ひーん。芳野の舌鋒の鋭さにトキオが平身低頭の構えになる。それでも荒んだ親友のためトキオはがんばった。
「アイツ馬鹿だけど、なぜかお前に本気でぞっこんだ。見た事ないぐらい苛々して、絶対に会いたいはずなんだ。忙しいのはわかるけど連絡とってくれないか」
発言には多々問題のあるトキオだが、友人想いに違いはない。帰れと怒鳴られても大地をそのままにはしておけないのである。
人付き合いの苦手な芳野にきちんと伝わっているか不安になったが、返事は即座に帰ってきた。
「了解した」
「頼む。悪かったな、バイト前に」
「いや。ありがとう。感謝する」
思いがけずストレートなお礼を言われ、トキオは面食らった。
「や……だってダチのことだしよ。話せばアイツも落ち着くだろうから仕事が終わったら電話でもしてくれよ」
「今から行く」
「え?」
「話す時間が惜しい。じゃ!」
芳野は電話を切り、ロッカーにしまった荷物をまた引きずり出した。
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