恒例ですが迷子です

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 いやー、今日の大地は荒れてたわ。    勝谷は凍りそうな星空に向けて白い息を吐いた。  本日、勝谷は仕事を終えて愛すべき大衆食堂『ままや』に行った。お楽しみの一杯ひっかけるためである。  しかし、そこでは大地がチャーハンを前に沈黙しており、声をかけたら荒んだ目つきで『愛って難しいっすよね』と語り始めたのだ。  ランドセルを背負っていた頃から大地の話題はほぼ野球だった。それが芳野以降は恋愛相談になり、のろけ話や浮かれ話にとってかわった。しかし、今回は史上初の暗さである。  『芳野君と何かあったのか』と問うたら、出るわ出るわ溜りにたまった鬱屈がマーライオンの口からとめどもなく流れる水のごとく一気に吐き出された。 「何で芳野の良さがわかんないんでしょうかね、お前の目は節穴かって俺は言いたいっすよ。俺は出会ってからずっと芳野を見てきたわけだから勘違いもへったくれもないじゃないすか。全部見てきて全部好きなわけだから、俺がイイって言ってんのに余計なお世話じゃないですか。  確かに俺ばっか一方的で芳野からの愛情表現はかけらも見たことないけど、そんなのそもそも期待してないっすよ。普通ってなんすか、普通って誰が決めるんすか。俺は芳野がいいんだし、俺より星とか望遠鏡が大事でもそれでいいんすよ」  事故の経緯も、男子同志の恋愛というハードルの険しさもよく知っている勝谷は、すべてを察し「会いたいんだな」と肩を叩いた。  大地は決壊したダムのごとく「会いたいっすよおおおおおおおおおぉ」と本音を吐露すると、テーブルにつっぷしたのである。
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