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いかにも不審な動きだが、空き巣の視察にしてはドンくさい。しかも注視している勝谷の存在に気付かない鈍さである。
「おーい、君」
思い切って声をかけると、人物はびくんと肩をとがらせた。
「どうかしたの。何か困ってる?」
「いや、全く!」
「あれ?」
きっぱり拒絶する警戒心むき出しのその表情に勝谷は見覚えがあった。大地に自慢されたフォトコレクションが脳裏によみがえる。
「もしかして君、芳野君?」
名前で呼ばれ、芳野の目つきはたちまち険しくなった。
「なぜ俺の名を? 最近の個人情報管理はどうなってるんだ、あっちもこっちもダダ洩れで油断ならない!」
芳野は早口で嘆いた。いやあの、と説明しようと近寄った瞬間、芳野は後じさりし、ダーッと駆け出した。
「ちょっと待って! 逃げないで!」
芳野は勝谷を振り切ろうとして細い路地に入り、さらに脇道に逃げた。その素早さは野良猫さながらだった。しかし残念なことに野生の勘は機能していないらしく、たちまち行き止まりにぶちあたる。
猫は突如塞がれた視界に衝撃を受け、壁を背にして勝谷を睨んだ。追いついた勝谷は慌てて弁明する。
「大丈夫、俺は大地の知り合い! 怖くない! ほら、思い出して、あいつの口から勝谷先輩って聞いたことない?」
「ない!」
きっぱり否定する。実際は幾度もあるのだが、星の話題しか記憶に残らないので抹消されていた。
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