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「大地に聞くのも嫌なのかな? だったら俺が連絡してやるから」
「いや、それは駄目だ」
芳野はなぜかきっぱりと制止した。
「大地は俺に事故を内緒にしたいがゆえに、怪我が治るまで姿をみせないつもりだ。その場合、連絡をとれば逃げる可能性が高い。しかし俺は今日は絶対に大地に会うと決めている。確実性を重視するならいきなり行くのが正しい」
俺の論理に破綻はないとばかりに芳野は勝谷を見返した。その気迫に勝谷が呆気に取られていると、芳野は背負っていたリックから羊羹を取り出して勝谷に一本渡した。
「自力で辿り着きたかったが、このままだと他家を訪ねるには時間が遅くなりすぎる。申し訳ないが案内をお願いする」
お礼のつもりの羊羹だが、差し出しながらキュルキュルと芳野の腹の虫が鳴った。どことなく全身からくたびれた様子が漂っている。在りもしない表札を頼りに、さぞかし迷ったのだろう。勝谷は思わず頭を撫でてやりたい衝動にかられ、そんな気分になった自分に驚いた。
「わかった。お腹減ったんだな。その羊羹、俺はいいから自分で食べるといいよ。ここからすぐだから頑張ろうな」
「む」
芳野は子ども扱いに不満顔だったが、代わりにキュルルルと腹が返事をした。
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