荒れ果てているダーリンはこちら

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 つまんねえつまんねえつまんねえ。  大地は自室のベッドに転がり、深刻な芳野不足に耐えていた。  事故はさほどの規模ではなかったが、利き手を怪我したのはよくよく失敗だった。他の場所なら誤魔化しようもあるが、右手の包帯は目立つし何より動作が不自由になる。運転はもちろん、食事や日常生活にも支障をきたすため、実家に戻るしかなかった。    週末が近づくたびに芳野に会いたくてうずうずする。  しかし、会えば怪我をした経緯を説明することになり、芳野は自分を責めるだろうし、忠告を無視して強引に通った自分もバツが悪い。  ……せめて別れ際が普段通りだったらよかった。  それならもうちょっと気軽に現状を暴露できたのだ。しかし捨て台詞の挙句、芳野のアパートを飛び出した結果が事故では、あまりに情けない。帰り際の芳野の呆然とした顔が時々蘇っては苦しくなる。 「くっそ……」  医者は一か月もすれば骨はつくと言った。そしたらこの大げさなギプスも外れる。リハビリは根性で最短ですませて、素知らぬ顔で会いに行くつもりだった。  それにしてもその一か月が長い。  トキオに指摘された通り、愛情表現に乏しい芳野は基本的に自分からは連絡してこない。それが芳野の普通であるから、悲しむべきことではないが、それでも時間の経過とともに気持ちは塞ぐばかりだった。  きっと今夜も芳野は目をキラキラさせて星を眺めているのだろう。  何度も詳しい説明を聞いたが、正直、芳野ほどのときめきをもって星を見たことはない。ダイヤモンドを撒いたような星空は確かにきれいだが、大地はいつだって星よりも芳野を見ていた。  手の届かない星に焦がれる芳野の横顔は、一方通行の想いで芳野を見つめる自分と同じ表情をしているのではないかと思う。
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