荒れ果てているダーリンはこちら

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 まだ寝るには早い時間だったが、何をしようにも気が乗らなかった。  店の方からひときわ賑やかな声が響いてくる。ますます眠れそうもなく、ため息をついたところで下からバンバンと壁を叩く音が響いた。  大地の母は二階まで呼びにきたりしない。叩くか叫ぶ。光浦家は住人を呼ぶのもザツである。 「ちょっとー、大地!! お客さんだよー!! 降りといで!」 「だめー、俺、もう寝たー!」  大地は舌打ちした。こんな時間にくるなんてトキオぐらいしかいない。学生の頃から、喧嘩をすれば必ずトキオからひょこひょこやってきて和解するパターンである。大地は普段はおおらかだが怒るとまず折れない。  無神経と心配性が同居しているトキオは大地を怒らせたことを気にしたのだろう。だがもう今日は何も話したくなかった。狸寝入りを決め込むつもりで布団に手を伸ばす。  降りてこない大地に諦めたのか、階下では母親が詫びているようだ。聞く気はなかったが地声が大きいので、話が筒抜けである。 「すみませんねえ、わざわざ来てもらったのに。怪我がまだよくなくて」 ぎゅっと目を閉じる。ガサツな母にしては珍しく丁寧だ。 「あらあ、いいんですか? 差し入れまで。こんな立派な羊羹、申し訳ないわあ」  ________んっ?    布団の中で大地の目がきらりと光った。  
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