267人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
なんであんな顔するんだ。
芳野は一心に歩いていた。そうでもしないといきなりしゃがみ込んでしまいそうだった。
振り払っても振り払っても至近距離だった大地の顔がちらついて離れない。熱のこもった眼差しは芳野を動揺させるのにじゅうぶんだった。
好きだという言葉は、何度ももらった。
でも過度な期待はしないようにしていた。
星以外に執着しない芳野にとって、大地はイレギュラーそのものだった。
親の仕事の都合で激しく転校を繰り返していた芳野は、きちんと人と向き合うことを避け続けて今に致る。環境に慣れなかったせいでもあるが、一過性の人間関係より永遠に頭上に寄り添う天文を選んだのは、星に魅了されたせいだけではない。
嫌だったのだ。
頑張って気持ちを交わしても、そのあとですぐ別れがやってくる。
よく使われがちな『ずっと友達』というその『ずっと』は大抵、転校の前後だけ打ち上げ花火のように盛り上がり、わずかなタイムラグを経て跡形もなく消えてしまう。
小さい頃から忘れられることも心変わりもさんざん味わい、芳野は人に寄り付かなくなった。本当は誰より別れというものが苦手だった。
不器用な芳野は、人と打ち解けるのにとても苦労する。そのうえ気持ちの切り替えも下手だからいつまでも寂しさを引きずってしまう。
どうせ一時の付き合いにしかならないなら初めから近づかない方がいい。
だから大地に関しても芳野は慎重だった。近づき過ぎないように、本気になり過ぎないように無意識に気をつけていた。
最初のコメントを投稿しよう!