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「そんなわけねえって! 俺が勝手に行って、勝手に事故ったんだから芳野は関係ねえよ!」
「俺に会いに来なければ怪我をすることはなかった。因果関係は明白だ」
芳野は大地の否定をものともせずに断定した。そしてさらに打ち消そうとする大地に言った。
「そもそも俺はこんな関係は無理だと思っていた」
「無理って……」
「友人や家族ならともかく、不確定な関係の二人に遠距離は難しい。やるやらない以前の問題として長く続くわけがない」
「芳野……」
全身から血の気が引いた。
青ざめた大地に気付いた芳野が一瞬、口をつぐむ。その先にさらに決定的な言葉が控えている気がして、大地の心臓はひっくり返りそうになるほど暴れ出した。手の中が冷や汗で濡れる。
「大丈夫だ、今までだってやれてたじゃねえか」
「現実を直視しろ。毎週毎週、仕事帰りにこの距離を通い続けることに無理がある。冷静な判断ができるならまだしも、お前は度重なる忠告もきかなかった。多忙にも関わらず毎週無理をしたら遅かれ早かれこういう危険な事態になったはずだ」
「けど……だってそうでもしねえとお前と直接会えるのなんか年に何回しか」
「そうだ。俺たちの生活圏が離れている限り、必ずどちらかが無理をすることになる。なぜならば俺たちは毎日会いたいからだ」
「え? あ、う、ん」
俺たち、という表現で絶望の淵に立っていた大地は一筋の光をみた。芳野は横に置いていたリックに手をつっこみ、中から一通の封筒を取り出した。
「これ」
大地はおそるおそる左手でその封筒を受け取った。
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