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芳野の言葉に何をどう返せばいいのかわからなかった。
芳野は人生を捧げるほど星が好きだ。生活の優先順位が星であり観測であることを大地は誰よりわかっている。(いつも後回しにされてきたからだ)
その星よりも大地を選んだという事が、にわかに信じられなかった。
しぱーん!
突然、大地は左手で自分の頬をひっぱたいた。
ぱしん! びしばし!
二度三度と繰り返す。激をとばして自らを覚醒させないと正気を保てない。これまでろくに愛情を示されたことがないため、甘々に免疫がないのである。芳野が訝し気に眉を寄せる。
「謎のふるまいだが、これ以上怪我を増やしてどうする」
「信じらんねえ」
「だから何が」
大地の頬は手形に赤く染まった。しかし大地がこれほど興奮と動揺の渦中にあるというのに、芳野はあまりにも平静だ。やはり夢なのかもしれない。今度は頬を千切れるほどに引っ張ってみる。痛いだけだった。芳野が変人を見る目つきで引いている。大地はこわごわと言った。
「だって……お前、いつも素気ねえし、会えなくても何でもなさそうだし……俺はれっきとした恋人同士と思ってるけど、世間のつきあいと比べたら全然、その、あ、愛情表現とか、ねえし……芳野は」
「うん?」
「いいのかよこれで」
上ずった声の大地を、芳野は見上げたままの姿勢で睨んだ。
芳野に見つめられると大地は動けなくなる。星を映したような目があまりに無垢でおそれを抱くからかもしれない。
芳野はふいに立ち上がると、大股で一歩、大地に近づいた。反射的に大地は息をつめた。怒られるのかと思ったが、立ち上がった芳野はそのまま大地の隣りに腰を降ろした。
近かった。ぴたっと隙間なく。
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