最適解にゃ

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「どうかした大地、顔色が」 「いいんだ! 芳野、こっち向いて」  赤い手形を付けながらこめかみは青ざめるというツートンカラーの顔色である。芳野が訝るのも無理はない。  大地は右手で固定できない分、首を伸ばして顔を傾けた。近づいた大地を見上げた芳野に、すかさず唇を押し付ける。  ちゅっと触れた柔らかい感触。  喜びのあまり落涙しそうになった。なんて久しぶりのキスだろう。幸せすぎてこっちが天国に召されそうだ。  色恋はタイミングが重要である。俗にいう『なんか流されちゃった』という謎の勢い。今ならば堅物の芳野を間違いなく押し倒せる。倒したついでに脱がせても暴れないだろう。そうなれば勝ったも同然、最後まで一気だ。  大地は左手で体を支え、さらに芳野に覆いかぶさるように前のめりになった。 「大地……?」 「大丈夫、俺に任せろ」  一瞬だけ唇を離して優しく囁く。  ラッキータイムはごくわずか。このふわんとした雰囲気は分単位しか持たない。芳野が我に返ったら終わりである。  左手だけでいかに手早く脱がせるか、それは今の大地にとって難易度の高いクエストだった。芳野が自分で脱げば世話はないが、さすがに期待しすぎだろう。もう全部脱がさずとも必要な部分だけむき出しにすればいい。大地の頭は煩悩まみれの段取りで埋め尽くされた。  芳野の胸に手を置き、服地を掴む。  頑張れ俺の左手。すべてはお前にかかっている。右手も指先ぐらいはいけるだろう。多少痛くてもここでやらねば男がすたる。とにかくいかにスムーズに脱がせるかだ。  さあ、出でよ神の左手……!
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