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母の存在感に圧倒されて、さすがの芳野が借りてきた猫になる。さっきまでぐんにゃりと大地にもたれていい感じだったのに、割り箸モードにチェンジだ。背筋がピン!である。
「恐れ入ります。ありがたく頂戴致します」
「まあああぁ礼儀正しいわ芳野君! ほらあんたも見習いなさいよ!」
「いーからかーちゃん、もう置いただろ!」
大地は母親の背中を押してぐいぐいと退場を迫った。覚醒したはずの神の左手の使い道がただの撤収道具となり果てた悲しみ。
ここからお茶を飲み羊羹を食べて、一息ついたのちにまたあの甘い空気に戻れるだろうか。
泣きたいほど無念だった。ほんのわずかの間だというのに、母親が醸し出すお茶の間オーラが最強すぎて、甘々だった空間がただのおやつ休憩になってしまっている。
しかし1パーセントでも可能性があるならオレはそれに賭ける……!
大地は深呼吸して振り返った。だが、すでに遅かった。
「うまいな、栗蒸しは」
もぐもぐもぐ。空腹だった芳野はすっかり色気より食い気にシフトし、美味しそうに羊羹を頬張っていた。
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