今日も迷ってます

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 高校を卒業したらまたいつものようにこの縁は切れるだろう。  しかし、そうはならなかった。  だが大学は遠い。この距離では無理だろう。  試すような気持ちと同時に、はやくも諦めがあった。距離があれば大地が自分を忘れても傷つかない理由になると思った。  それでも大地は揺らがなかった。それは嬉しい方の誤算だった。  会うたびに芳野は不安と安堵を繰り返し、亀のような歩みで一歩づつ距離を縮めてきた。芳野の警戒心の強さも度外れているが、大地の根気強さも称賛に値する。 「あれ……」  芳野は悶々としながら歩き続け、高台の丘まで来ていた。  高校時代は転勤を続ける親と離れて一人暮らしをしていたから、夜に出歩くことも自由である。方向音痴だが、星がよく見える場所は忘れない。この丘は高校時代によく観測に使っていた場所だが、すでに新しい建売住宅が建っていた。四年近く経てば街並みも変化する。  当然だった。まして人の気持ちなど推して然るべきである。  大地の言う通り太陽には灰色の雲がかかり空は鈍い鉛色をしている。住宅地の端で立ち尽くして空を見上げた。リックが重い。  星はいい。  どんなに好きでも何億光年も離れた場所でそっと想うだけだ。もどかしいかもしれないが、絶対に傷つく心配のない距離だ。  しかし、大地が望むのはそんなささやかな付き合いじゃない。  芳野は口元を手の甲で押さえる。途端、火を噴いたように頬が熱くなった。  俺は臆病者だ。  芳野の感覚では昨日からの大地の距離は性急にして近すぎだった。大地が何度も口にしてきた『好き』が行動と化し、リアルな近さを見せつけてくる。  本当は夜中、大地の気配を感じていた。  目を開けたら、続きが始まってしまう気がしてずっと寝たふりをしていた。大地は何度も近づいては遠ざかり、触りそうになっては寸前で止まった。  その熱に流されることが芳野は無性に怖かった。
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