なんやかんやで春になり

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「なぁ芳野、こっちに来たら一緒に住まねえか」 「なんれらぁ?」 対する芳野の返事はビールのせいでぽやんとしている。しかしそれはむしろ大地にとって好都合だった。酔っ払った芳野はガードがゆるゆるだからである。大地は畳みかけるように言った。 「何でって、もう離れてんの嫌じゃねーか。近所に住むなんてまどろっこしい事してねえで、同じ家の方が何かと合理的だろ。なっ?」 合理的とは理屈屋の芳野が好きな言葉である。しかし酔ってはいるが、あまりに突然の申し出、芳野もそう簡単には同意しない。 「そこまれはいいんらないのか。町内なら気軽に会えるのら」 「いやいや俺は朝に晩に会いてえし。そしたら毎日通うことになるだろ」 「しょれは大変らな」  他人事のように芳野は言う。愛情路線での説得は難しいと判断した大地は、正座したままプレゼンを続行する。 「冷静に考えてみろ、同居は良い事づくめだ。通いの時間も労力もゼロ! 家事も助け合えるし、なんたって家賃が半分になる。芳野だって広い部屋の方がいいだろ。なっ?」 「もともとそんな大した部屋を借りるつもりはにゃい」 「けどな、今までは学生の期間限定の間借りだから適当でいいけど、今度は長く住むんだぜ? 家に寝に帰るだけなんてつまんねえって。二人だったら、空に近い高層階のマンションも余裕で借りられる。屋上に出られる物件なら、観測だってオッケーだ。毎晩夜空を独り占めだぞ」 「観測……?」 芳野は見えない夜空を見るように目をしばたかせた。大地はこの好機を逃さじとさらに熱弁をふるう。
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