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自分のつくったごはんを頬張る芳野を見るのも大地の楽しみである。
だが今日ばかりはいつもと違っていた、大地はしばし無言で飯をかっこんだ。緊張しているせいで味がしない。黙っているぶんスピードに加速がつき、たちまち茶碗の底がみえた。付け合わせのキャベツを咀嚼すると、覚悟を決めて口を開いた。
「仕事は大丈夫か。周りの奴らと話とかできてんのか」
「うん、たぶん」
もぐもぐもぐ。芳野は口一杯に広がる肉と米のハーモニーを味わいつつ答える。
「明日は休みだよな」
「そうらな」
もぐもぐ。芳野は呑気に旨味に酔いしれている。大地はさらにダメ押しした。
「今夜は観測しねえよな」
「いや、週末だし少しぐらいは……」
「雨ふってる。ざあざあ降りだ。天気予報では100%」
ここに至って、ようやく芳野は大地が何を言わんとしているのか気付いた。芳野の箸が止まったその時、大地はみそ汁椀を片手に言った。
「抱いていいか」
ぶほっ。ストレートな切り込みに芳野が米粒を噴き出さなかったのは奇跡だ。大地はワカメと豆腐を一気に流し込むと、みそ汁の椀を置いた。
「もしお前もそれでいいなら、今晩俺の部屋に来い。覚悟が決まんねえならまだ待つけど……俺は来て欲しい。そんじゃあ御馳走様」
芳野の反応がまともにみられず、大地は食べた食器を抱えてキッチンに行った。
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