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あいつふやけないのか。
居ても立ってもいられなくなり、芳野が開けるはずだったドアを自分で開け、浴室に向かった。中ではシャワーの音がしていたが、うずくまるシルエットが透けて見えて大地は顔色を変えた。
「おい、大丈夫か!」
「開けるな馬鹿!!」
バン!とドアが開くのと、しゃがんでいた芳野がはじかれたように立ち上がったのは同時だった。
芳野は真っ赤な顔で湯舟に飛びこみ、激しく湯が跳ねた。湯舟から首から上だけ出すと恨めしそうに大地を睨んだ。
「物事には準備がある」
「あ、うん。だな。そっか……その、そんでどうだ」
『準備』その輝くワードに胸の高まりを抑えきれない。
「……これでいいのかよくわからない」
のぼせた顔で芳野はうつむいた。よほど奮闘したのか、額から流れた汗が雫になって落ちる。大地が見つめているとたちまち耳までピンクに色づいた。
「芳野」
大地は躊躇なくパジャマのまま風呂場に踏み込んだ。芳野が慌てた。
「馬鹿、濡れる」
「そんなんどうだっていい」
浴槽のへりを掴んで屈むと、困り果てたような顔で芳野が見上げた。
その頬を手ですくい唇を押し付ける。唇が熱かった。一度離れて、二度目は舌に触れる。服が水分を含んで重くまとわりつく。だが濡れるのは気にならなかった。それよりも芳野の潤んだ目がいつも以上にきらきらして大地は見惚れた。
「俺がする」
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