今夜こそ(祈・念願成就)

10/11

267人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
「狭っめえな……あと少しなんだけど」 「いいから、もう! ここまできたら早くしろ!」 大地は息を弾ませた。芳野は息も絶え絶えだった。濡れたままの芳野の前髪を大地が優しく撫でた。 「だって痛てえだろ」 「だからさっきからそう言ってるだろう! どうせもう痛いんだから遠慮するな、思い切りいけ!」 「くッ……じゃ、行くぞ?!」 締め上げられたままの大地もきつい。体当たりで腰を打ち付けた。  めりっと裂けるような衝撃。芳野は声にならない悲鳴をあげた。だがその瞬間、奥底までズシンと響いた。はっきりとこれまでと違う手ごたえがあった。芳野は冷や汗とともに奥歯を噛みしめた。 「う゛ー……」 「は、入ったぁ……!」 大地は汗だくの額を拭った。 「動くぞ」 「はあ?!あああもうふざけるな馬鹿こんなの動いたら死ぬ」 「ごめん。でも俺すげえ嬉しい」 「何が!」  こんな悲惨な状態で嬉しいと言われ、芳野は怒鳴った。  しかし泣きそうな大地と目があって口をつぐんだ。大地の唇がわなないている。  野球部の頃からそうだ。グラウンドでは太陽のように明るく振舞っているくせに、芳野の前では繊細な表情を見せる。  星の話をする自分を、どうしていつもそんなに切なげに見つめるのか。  その意味がわからないふりをして長い間逃げていた。  ずっと逃げていた芳野とこうしてつながっている。  それは眺めるだけだった星に手が届いたに等しい。だからこの夢のような瞬間が、大地の胸を締め付けた。 「やっと捕まえた」 「……そうだな。捕まってしまったな」  芳野は照れくさそうに答えた。  ふ、と吐息のように柔らかく微笑んで、大地は芳野を抱きしめた。 とっくに捕まっていたのに。芳野も小さく笑った。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加