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「狭っめえな……あと少しなんだけど」
「いいから、もう! ここまできたら早くしろ!」
大地は息を弾ませた。芳野は息も絶え絶えだった。濡れたままの芳野の前髪を大地が優しく撫でた。
「だって痛てえだろ」
「だからさっきからそう言ってるだろう! どうせもう痛いんだから遠慮するな、思い切りいけ!」
「くッ……じゃ、行くぞ?!」
締め上げられたままの大地もきつい。体当たりで腰を打ち付けた。
めりっと裂けるような衝撃。芳野は声にならない悲鳴をあげた。だがその瞬間、奥底までズシンと響いた。はっきりとこれまでと違う手ごたえがあった。芳野は冷や汗とともに奥歯を噛みしめた。
「う゛ー……」
「は、入ったぁ……!」
大地は汗だくの額を拭った。
「動くぞ」
「はあ?!あああもうふざけるな馬鹿こんなの動いたら死ぬ」
「ごめん。でも俺すげえ嬉しい」
「何が!」
こんな悲惨な状態で嬉しいと言われ、芳野は怒鳴った。
しかし泣きそうな大地と目があって口をつぐんだ。大地の唇がわなないている。
野球部の頃からそうだ。グラウンドでは太陽のように明るく振舞っているくせに、芳野の前では繊細な表情を見せる。
星の話をする自分を、どうしていつもそんなに切なげに見つめるのか。
その意味がわからないふりをして長い間逃げていた。
ずっと逃げていた芳野とこうしてつながっている。
それは眺めるだけだった星に手が届いたに等しい。だからこの夢のような瞬間が、大地の胸を締め付けた。
「やっと捕まえた」
「……そうだな。捕まってしまったな」
芳野は照れくさそうに答えた。
ふ、と吐息のように柔らかく微笑んで、大地は芳野を抱きしめた。
とっくに捕まっていたのに。芳野も小さく笑った。
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