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封筒を手に取り、書類を入れて糊付けする。
スポッと入れてペタン、スポッとしてペタン。
大学の教務課では、芳野の卒業とともに遠ざかっていたその単調なリズムが響いていた。
「やっぱりこの音よね、これこれ」
「懐かしいわねー、芳野君の糊付けマシーンぶりを思い出すわー」
「熟練の技だったわよねえ、今頃どうしているのやら……」
業務の手を止めてオバちゃんズがしみじみと語り合う。教務課のマスコットがいなくなり、ロスに陥っていたオバちゃんズである。
しかし、別れがあれば出会いもある。しばしの空白の後、教務課には新人バイトがやってきた。しかも芳野の後輩である。
「佐倉君、こっちの段ボールもお願いできるかな。遅くなるけど大丈夫?」
「はい。稼ぎたいんで俺は全然」
新人バイトの佐倉旭は初々しく微笑んだ。佐倉は真面目で清潔感漂う青年である。
面接で芳野の友人と言い放ち、教務課一同は大いに驚いた。あの星にしか興味のない芳野に友達がいたのか!という素直な衝撃だった。
しかしいたのだ。佐倉は学年こそ違うが数年にも及ぶ芳野の観測仲間である。芳野と同様にガチの星好きであるが、芳野のような偏りの激しいタイプではない。仕事も無難にこなす。
「熱心だけど、欲しいものでもあるの?」
オバちゃんズは佐倉にチョコを渡した。甘いもので情報を引き出すのはオバちゃんズの常套手段である。佐倉はペコリとお辞儀をした。
「欲しいものは別にないんですけど……また芳野のところに星を見に行こうと思って」
「また?ってことは二度目? 芳野君どうしてた?元気だった?」
オバちゃんズは鋭い。ぐいぐい突っ込んでくる。
※佐倉君と芳野の出会いはこちら↓
『カクレろまん』https://estar.jp/novels/25719883
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