エピローグⅠ ~いきなりですがもう夏です

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「もちろん元気でした。仕事もプライベートも充実って感じで……」  佐倉は語尾を濁したが、オバちゃんズはさらに身を乗り出してきた。  赤くなったり青くなったりしながら封筒貼りをしていた芳野の現状が知りたい。二個三個とチョコが積まれる。だがいくら甘味でつられても言えないこともある。 「あ……詳しいことはあんまり。芳野とは相変わらず星の話ばかりで……」    佐倉はさらに伏目勝ちになり、口ごもった。  星好きが縁で友人になった佐倉と芳野だったが、佐倉の目的は観測だけではなかった。ともに夜空を見上げていた数年の間に芳野に恋心を募らせていたのである。  てっきり芳野は大学院に入ると信じ、のんびり構えていたらまさかの就職。サヨナラを言う間もなかった佐倉は、春の終わり頃に僻地の芳野を訪ねた。  あわよくば自分の想いを告げる覚悟だったが、行ってみたらルームメイトという名目の恋人がおり、粉々に失恋。  こんなことは口が裂けてもオバちゃんズには暴露できない。佐倉は話を星にそらす。 「すごい田舎だけど観測にはもってこいの場所なんです。季節によって見える星も違いますし、今回は町をあげての星空ツアーがあるっていうから参加しようと思って。キャンプ場もあってツアーの期間中は夜も天文台を解放してます。館内のイベントは芳野がガイドしてくれるらしいです」 「ふううぅん。芳野君、仕事張り切ってるんだ」 「ええ。せっかく誘ってもらったんで」  オバちゃんズの眼は探るように佐倉を覗いたが、大きく頷いて誤魔化した。   そう、佐倉は決して嘘はついていない。  ただし誘ったのは芳野ではないのだ。    _______話は失恋の日までさかのぼる。
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