274人が本棚に入れています
本棚に追加
爺様たちは鼻高々で言った。
「案ずる必要はない。我らはプロ! 雇い主に関わる人物は即座に調査、掌握するのは基本中の基本じゃ」
「つまり勝っちゃんの親友大地君の周辺もその範囲内。それゆえに佐倉君はもとより調査対象だっただけのことよ」
「ま、言うなればボスの安全を守るための必要悪じゃ。勝っちゃんは人が好過ぎるから危なっかしくてのう。じゃから毎朝のジョギングも必ず同行して三人で守っておるのじゃ!」
張り切る年寄りを前に、勝谷は真顔で佐倉に謝罪した。
「すまん。はた迷惑なのは俺が一番わかってる。でも悪用するとかは絶対にないから。これは完全にじーちゃんたちの趣味というか習い性なんだ」
「意味不明だし…あの、本当に、俺はこれでもう」
佐倉は関わり合いになるまいと踵をかえした。しかしその瞬間、常人離れした素早さで爺様の一人に動きを止められた。
一瞬、何が起こったのかさえわからない。強く拘束されているわけでもないのに、爺様のなすがままに動かされてしまう。
その脇から第二の老人が優しく囁く。声は優しいが、こちらも掴まれた腕は微動だにできない。
「急ぐでない、勝っちゃんは失恋のプロじゃ。なにしろたった一度の失恋が尾を引いて未だに独り者じゃからな。町を盛り立てる者として傷ついた心のまま君を帰すわけにはいかん。さあ、痛みを知る者同士、そこの河原で洗いざらい話すがいい。楽になる」
三人の爺様は佐倉と勝谷の背中をぐいぐいと押して川辺に連れて行った。そして『後はお若い二人で。にしししし……』と遣り手婆のように言い残して去っていったのだ。
あまりに一方的な成り行きに、佐倉は見送るしかできなかった。勝谷はバツが悪そうに頭をかいた。
最初のコメントを投稿しよう!