エピローグⅠ ~いきなりですがもう夏です

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「爺ちゃんたちに言われたからじゃないけど……話してみる?」 「……つまんない話ですよ」  勝谷の気負いない言い方につられ、佐倉は口を開いた。  もしこれが学校やバイト先の知人だったら、同性を好きになった話などできるわけがない。だが、勝谷は行きずりの存在だ。その安心感が佐倉を饒舌にさせた。  途中、感情のままに吐き出したせいで、かなり話はぐちゃぐちゃになった。なのに、勝谷は急かすでも意見を挟むでもなく、ひたすら聞き役に徹していた。  優しい人だな、と思った。その優しさがささくれていた気持ちに沁みた。  言うだけ言ったら、辛かったな、と頭を撫でられた。不覚にもまた涙腺が緩んだが、勝谷は不躾に泣き顔を覗いたりしなかった。見なかったことにしてくれるのがありがたかった。佐倉は乱暴に目をこすった。 「はは。駄目だな。早く忘れるようにしないと」 「うん、でもさ。一度好きになった相手はやっぱりいつになっても好きのままだよ。でもだんだん好きの形って変わってくんだ。そしたら楽になる。時間はかかるかもしんねえけど」  同じ川面を見ながら、勝谷は目を細めた。そういえば三爺は勝谷が失恋を引きずっていると言っていた。どんな恋だったんだろう。勝谷ならきっとその相手をすごく大切にしたに決まってる。絶対にだ。なのに。  真面目な面差しをじっと見てしまった。その視線を感じたのか、ふいに勝谷が笑いかけた。びっくりするほど人懐こい顔をする。 「悩んでもしょうがねえ。こういう時は星を眺めるに限る」 「ロマンチックな事言うんですね」 まだ涙の余韻で洟をすすり上げながら佐倉は言った。
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