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「星に圧倒されて余計なことなんか何も考えられなくなる。俺はこれが普通なんだと思ってたけど他ではこんなに綺麗に見えないんだってな。まあ、そうは言っても俺は星のことは知らないから詳しい説明はできねえんだ。案内してると色々聞かれるんだけど、さっぱり答えらんなくて」
「なら教えますよ」
気付いたら勝手に口走っていた。そこからまた話をした。なぜか勝谷を相手にするといくらでもしゃべれるのが不思議だった。人見知りの佐倉にとって初対面でこんなに話すのは奇跡に近い、
駅まで送ってもらう間もずっと話し続けて、電車を待つ間も話していた。
待ってたはずの電車が来た時、ふいにこれで終わりにするのが名残惜しくなった。電車に乗り込みながら振り返ると、勝谷がやみくもにポケットに手を突っ込み、よれよれの名刺をみつけて佐倉に握らせた。
「星のこと、覚えきれないからまた教えてくれねえか」
佐倉は頷いた。電車は走り出しても、ホームに残ってる勝谷から目が離せなかった。この町で、勝谷はこれからも一人でいるのかと思ったら胸の奥が騒いだ。なんだこれ。俺失恋したばっかでチョロくないか。だけど……
結局、佐倉は名刺のアドレスに連絡をとり、そこから二人の親交がはじまった。夏の星空ツアーも勝谷の誘いである。
遊びに来ねえか? 今度はちゃんと星を見ながら話ししてえし。
電話の声はいつも朗らかで明るい。その明るさは星のまばゆさに匹敵すると佐倉は思う。満点の星空を指さしながら、どんな話ができるだろう。佐倉の気持ちはそわそわと浮足だっていた。
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