エピローグⅡ ~気付いちゃったのよ

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「よーし、そんなら任せとけ! なあじーちゃん、ばーちゃん、約束しちゃっていいよな?」  大地は張り切って厨房に声をかけた。店の主である祖父母がそれぞれフライパンと布巾を片手にぎこちなく頷く。  実は楽し気な打ち合わせが続く中、厨房では微妙に勘違いな会話が交わされていた。ちなみに夕方のこの時間、厨房には店主の祖父母と、混む時間だけ手伝いに入る母がスタッフとしてスタンバイしている。  大地の祖父は重い口調で言った。 「ばあさん、俺の記憶に間違いがなければ、確かあの冴ちゃんてのは、大地の彼女だったはずだよなあ……」 「ええ間違いないですよ、高校の頃、何度もここに遊びにきてたもの」 「そんでもって、トキオ君は大地の親友……こいつはアレかい」 「間違いなく三角関係……」  祖父母は痛々しい目で孫を眺める。  友人とは何でも話す大地だが、年頃男子は大概、家族に付き合いの詳細を報告したりしない。多忙な光浦家の面々も相談されない限り干渉はしない方針だ。しかも高校卒業以来実家を出ており、光浦家では大地の交友関係は長い間更新されていなかった。  それが久しぶりに冴がやってきたかと思えば、トキオと横並びで結婚の話である。まさかの展開に祖父母のショックは大きい。 「大地のヤツ、振られちまったか。冬の頃、店でトキオ君と喧嘩してたのはこの修羅場の決着だったんだなあ」 孫が不憫なあまり、祖父は炒め物をしながら首を横にふるばかりである。その冬の喧嘩の実情は、芳野に会いたくてやさぐれていた大地がトキオに八つ当たりしたにすぎないのだが。 「派手に言い合ってましたもんねえ……ショックだろうに、あんなににこにこして可哀想に……健気な子だよ」 祖母は割烹着の裾をつまんで涙を拭く。涙もろいのである。大地がにこにこしているのは芳野との恋愛が順調で余裕があるだけなのだが。  そんな悲痛なムードの祖父母を横目に、母は無言で皿洗いをしていた。  さっきからずっと母の第六感が疼いている。
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