エピローグⅢ ~さすがに終わります

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 夏の星空ツアーは、七夕を始まりとする。  いよいよ町興しが本格的にスタートを切ろうとしていた。今年に入ってキャンプ場の運用も始まり、単発の観測企画も試みた。春には天文台も無事オープンした。  そしてついに商店街及び地元企業にも協力を仰いだ夏のイベントが始まる。町の職員が慣れないSNSと格闘して日々呼びかけた結果、ツアーの申込みも上々だった。  ……やるだけはやった。  大地は自分に言い聞かせるように頷く。明日からはしばらくは目の回るような忙しさだ。だが緊張感よりもワクワクする気持ちが勝っている。  大地は車を運転しながら夜空をチラ見した。七夕にはなぜか雨がよく降るが、スタッフみんなの祈りが通じたのか、降るような星が輝いている。  マンションに戻ると芳野が難しい顔でぶつぶつ呟いていた。まだ天文台のコスチュームのまま着替えもしていない。 「おー、ただいま。どうかしたのか」 「何でもない。放っておいてくれ」  天文台も明日からはイベントに合わせた特別展示になる。テーブルには赤字でさんざん書きこみがなされた原稿が広げられていた。 「ああ、ガイドの練習してんのか」 「そうだ。重要な役どころだからと館長の熱血指導が入った」  大地は着替えながら原稿を覗き込んだ。  ただでさえスタッフの少ない天文台、芳野はその中で一番の若手である。コミュ力がどうこう言っている余裕はなく、館内ツアーからプラネタリウムの解説までバンバン人前に立つ仕事を割り当てられていた。  とはいえ星とくれば超のつく得意分野、マイペースな芳野が緊張するとも思えない。大地はネクタイをほどきながら明るく言う。
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