エピローグⅢ ~さすがに終わります

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 腕の中でちんまりと納まっている芳野を見下ろすと、いつも必ず嬉しい気持ちになる。 「芳野、ん?」 「ん」  顔を近づけるとちゃんと芳野も伸びあがる。こういうところ律儀なんだよな、と大地は内心でほくそ笑む。  芳野の柔い唇はいつも大地よりちょっとだけ体温が高い。舌の先を差し込むと抱きしめたその体が緩むのを感じる。一日の疲れが吹き飛ぶ瞬間である。 「芳野……」  抱きしめる腕に力が籠る。キスを交わし、気持ちが高まればその先まで進むのがこの家の流れだった。つまりお熱いのである。  だが、大地の手が芳野のシャツの中に滑り込んだとたん、芳野はその手を避けるように体をよじった。 「あの……やめとく。今日は続きはしない」 「何で? 疲れた?」 「明日は大地がずっと頑張ってきた大事なイベントの初日だ。万全の状態で迎えたい。その……するとすぐ眠たくなるし。もうちょっと俺も練習しないと」 「そっか。じゃ、今日のところはやめといてひとまず飯にするか」  大地はもう一度名残惜しく唇を重ねると、優しく微笑んだ。照れてあえての仏頂面になる芳野が愛おしい。  芳野を見ているだけで湧き上がってくる暖かい気持ち。これぞ愛であろう。大地はテーブルの上に置いたままの荷物を引き寄せた。 「今日『ままや』に寄ったらすげえ大量のおかず持たされたんだ。かーちゃんが芳野に食わせてやれって」 「『ままや』の! あれはあるのか」  ままやと聞いて芳野の目が輝いた。
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