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こちらに住むようになってから二人で定期的に店に通っている。そして夏を迎え、母のお手製の水羊羹に出会った芳野は、一口でその甘い口当たりに魅了されたのだ。
「あるある」
大地は紙袋を探るとタッパーを掲げた。
芳野が機敏に原稿を片付け、コスチュームから部屋着に着替える。その間に大地はもらった料理をテーブルに並べる。コロッケに煮物、サラダに水羊羹。さっそく芳野がコロッケにがぶりつく。
大地は、芳野にご飯をよそってやりながら言った。
「そういえばさ、トキオが冴と結婚するんだ」
「トキオ……?」
食欲を前に、またしても記憶のかなたに追いやられているトキオだった。だが三度の瞬きのあとでようやく芳野の脳内検索にヒットしたらしい。
「思い出した。お節介で星に無知な大地の友人だな。そうか、結婚するのか」
「おう。『ままや』で二次会するんだ。野球部のOBでやるつもりだったんだけど、友人らも行きてえっていうから、自由参加にしたらどんどん増えて誰が来てもいいみたいな感じになってる。お前もくるか」
まあ芳野はこういうの興味ないだろうけどな、と思いつつ一応尋ねると、意外なことに芳野は眉を寄せたまま、行くと言った。
「マジで!? ほんとに来てくれんの?」
「ああ」
半信半疑の大地に、芳野は頷いた。
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