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感慨にふけるあまり真顔になった大地からあえて目線を外して、芳野は好物の水羊羹に手をつけた。本当なら一番に食べたかったのだが、おやつは食事のあとでと言われているので我慢していたのである。
「それより、また佐倉が来るらしい」
「えっ?」
つるん。芳野はアシカがイワシを丸のみするように羊羹をのみ込んだ。
好きなものを食べる時、芳野は信じられないぐらいスピーディーになる。口の中が好きな味でいっぱいになるのが嬉しいのだ。だから時折、見違えるほどしもぶくれになる。
「ほえ、こえ」
芳野はむぐむぐしながら携帯の画面を見せた。佐倉とのやりとりは相変わらず星に関してのディープな内容が主だが、最後にまたそちらに観測に行くと書かれていた。
「ほんとだ。でもツアーの申し込みに佐倉君の名前なかったけどな。見たら俺、ぜったい気が付くと思うんだけど」
「佐倉がくるのは夏休みに入ってからだ。天文台にも顔を出すらしい。それまでにガイドを極めておかないと」
あの魅力満載のアイドル芳野を見せて大丈夫か……大地に不安がよぎる。
「そっか、そんじゃあ、また泊まるかな……」
大地は腕を組んだ。芳野はまた水羊羹に手を出し、二つ三つと口に放った。
「大地は佐倉のことを話すとき、なぜ他と違う反応をする」
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