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久しぶりに高校に来ていた。
俺がいたころの天文学部は廃部も同然なほど寂れていたが、今や地元が星空イベントを推していることもあって結構人気があるらしい。
天文台に文化祭の協力依頼がきて、まさかと思ったら館長が二つ返事で引き受け、しかも『芳野君の母校なんだから助けてあげなさい』と押し付けられた。
嫌々出向いたものの生徒たちは熱心で、俺もみっちり星の話ができて、思いがけず楽しい時間になった。次は天文台で会う約束をして別れたが、一人になってもまだ気分が高揚したままでいる。
校舎の中を歩いていると、教室や廊下があの頃と同じままだった。学生服の生徒とすれ違うたび今と昔が同時に存在しているような不思議な錯覚に陥る。
まだ制服を着ていた頃の俺にとって、世界はとても窮屈だった。
あの頃の俺は今以上に観測に夢中で、クラスメイトにも教師にも関わろうとは思わなかった。他人はすぐ余計な口出しをする。星ばかり見てるとか、変わってるとか、そんな風に。
俺にとっての観測の必然性など、どうせ理解されるはずもないから説明する気もなかった。むしろ関わらないで欲しくて不機嫌さを隠す配慮もしなかったし、俺は星を見るのに忙しいんだからと開き直っていた。
そんな偏屈な俺に、大地はよく愛想を尽かさなかったものだと思う。
なぜか毎日一緒に帰る流れになって、押し切られた俺は、初めの頃ひどく苦々しく思っていた。だけど、あのしつこさがなかったら今の俺はない。
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