スター10000☆彡 お礼SS

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 大地は友人が多いからいつも笑っているのだと思ってた。  だけど、一人きり、校庭で空を見上げる大地は、届かない月に途方にくれる子供のような顔をしていたり、祈るようにじっと雲の切れ間を見つめていたりする。  それを見てから、ようやく俺は帰るときに必ず大地を探すようになった。あんな顔をした大地を置いてけぼりにするのは気が引けたからだ。  そのくせ帰り道に大した話をするわけでもない。  後になれば思い出せないほどくだらない雑談ばかりだ。まして観測後の俺は上の空なことも多くて、返事も適当になる。そもそも大地と出会うまでまともに人と話していない。何を話せばいいかもわからなかった。  一緒に帰る相手がいるというのは、正直、面倒だった。  歩調を合わせたり、相槌を打つことが。だけど鬱陶しいはずだったそれが、段々と慣れるに従って心地よくなって、さらに月日が経過した今ではもう、話しても話さなくても、大地が隣を歩いているのが当然に思える。 『芳野』  呼ぶ声が欲しくなるような、そんな帰り道。  俺はいつも聞きなれたその声を、胸の中でそっと反芻する。    大地はきっと、ただ単純に、毎日帰りを待っていたわけじゃないんだ。  きっと、俺の気持ちが、ゆっくりゆっくり傾いていくのを、待っていてくれたんだ。    自分でも呆れるほど人付き合いの経験のない俺だからこそ、ゆっくりと。本当は短気なくせに、驚異的な忍耐力でずっと待っていた。  月がいつの間にか姿を変えるのを、ただ毎夜、見上げて待つように。
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