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トキオと冴はきっと幸せにやるだろう。そこは大いに祝福する。トンチンカンなところがあるがトキオは親身で男気もある。付き合えばうまく行くに違いない。
その点、自分は全然駄目だった。
今になって冴にはひどいことをしたと思う。冴と付き合っていたわずかな期間、こんなに会いたくて焦げ付くような気持ちになったことなど一度もなかった。彼女ができて嬉しかったが、それ以上でも以下でもなかった。
トキオたちから誘いがあれば考えなしに付き合いを優先した。冴が不満に思ったのは当然だった。でもそれがわからないぐらい大地と冴との気持ちには温度差があったのだ。
大地は芳野を好きになって、いかに冴をぞんざいに扱っていたかを知った。とても芳野にあんな態度はとれない。気になって心配で、どうしようもない。あんな顔の芳野を放っておけるはずがなかった。
「待ってろよ」
大地は立ち上がってパーカーをひっかけた。靴を履きながら携帯を掴む。
すぐさま芳野にかけた。コールするが出ない。だがそれくらいは想定内だ。へこたれずに切ってまたかけた。その間にも芳野が目撃された方向を目指して走り出す。
外は一段と暗く曇ってる。またかける。切ってかける。繰り返す。
「早く出ろ、馬鹿」
焦れて悪態をついた瞬間、聞いていたように電話がつながった。
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