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「しつこい! うるさくて集中できない」
出るなりむくれた声だった。それでも芳野が電話に出たことに大地はホッとした。
「芳野、どこだ」
「言う必要がない。今日はこのまま夜まで観測して明日帰る」
「野宿するつもりか? あぶねーって!」
「大丈夫だ、慣れてる。それじゃこれで」
「駄目だ迎えにいく、場所教えろ」
「嫌だ!」
思えば芳野とはこんな追いかけっこばかりしている。芳野が方向音痴のせいもあるが、近づけば逃げるの繰り返しは二人の関係そのものなのだ。
しかし、何度もいなくなる芳野を見つけてきたせいで、すこぶる勘は良くなった。頭を使うのが苦手な分、大地は感覚が鋭いのかもしれない。
「てめーバックレんじゃねえぞ! 観測なんてしてねえだろ。星見てたら電話なんか出るわけねえもん」
「憶測で物事を決めつけるな。俺は全力で観測を楽しんでいる。さっきから星を見まくってて忙しくてたまらない」
「嘘つけ、今にも雨が降りそうじゃねーか!」
「心の目で見てるんだ!」
「そんなの観測じゃねえだろ!」
「俺には俺のやり方がある。ほっといてくれ。もうかけてくるなよ」
「芳野!!」
大地はぴしゃりと遮った。電話の向こうで芳野が黙る。大地は大きく息を吸い込んで言った。
「俺とキスしたの、そんなに嫌だったか」
「なっ……急に何を言う!」
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