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「ちょうど良かったんだ。ここは星も見えるし、工事中らしいが人はいなくて。きっと休日で工事も休みなんだな。うん」
「悪ぃ、全然意味分かんねえけど」
「分かれ。それで、せっかくだから屋上で観測しようとしたんだが、中に入れないから外から登るしかない。そこで俺は工事用の梯子を拝借して、それで上に」
「待て、どこ忍び込んだんだ。工事? 屋上?」
「心静かに観測に専念するはずだったのに、お前が来るとかいうから、場所を変えようとして梯子に手を伸ばしたら指先が当たって」
芳野の声から力が失われていく。
「梯子を倒して降りられない」
「ああ……そっか天文台か」
この断片的なヒントで奇跡的に大地はひらめいた。
この周辺で工事をしている公共施設はそこしかない。さすがに役場の職員、町の様子は把握している。
天文台は来年を目途に再開予定で、修繕工事が入っているところだった。かなり走って町のはずれまできていたので、ここからならすぐ近い。狭い町である。
「やべぇ、雨降ってきた」
大地は頬をかすめた雨粒に眉をしかめた。降りられない以上、不幸中の幸いで確実に芳野を足止めできる。きっと屋上で芳野は途方にくれているだろう。高いところに登ったはいいが降りられない駄猫のようだ。
「いいか、五分でいく。約束する。絶対に動くなよ」
大地は念押しすると携帯を切った。そして今度こそ全速力で駆け出した。
※鳴さま製作裏話
https://estar.jp/novels/25306033/viewer?page=255
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