はじめてのつぎの日

3/11

267人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
 シャカシャカシャカ。    光浦大地は歯磨きをしながら考え事をする癖がある。歯を磨くだけでは暇で、だけど他の何かをするほど自由でもない。  だからボーッと手を動かしながら取り留めもない事を考えるのが常だ。仕事の事、天気の事、週末の予定、友人とのやりとり。それで程よく眠気が覚めてくる。  だが今日はまるで上の空だった。  なぜなら高校時代から好きだった芳野凛と昨夜、初めてキスをして、しかもその芳野が大地の家で寝ている。  昨夜は同窓会で地元に戻ってきた芳野と久しぶりに会える日だった。  だが、ちょっとした行き違いがもとで言い争いになり、その挙句、強引に唇を奪った。  しかし成り行きとはいえキスはキス。全力で想いはこめた。事故ではない。  ドアの隙間からリビングを覗く。  ソファーをベッド代わりにしてきっちり喉元まで毛布をひきあげた芳野がすやすやと眠っている。おそろしく寝相がよく、布で巻かれたミイラみたいに微動だにしない。  ……やっぱりいる。  何回見ても信じられない。  野良猫並みに懐かない芳野と話をするようになってから早数年。高三に出会って、惚れて、卒業の時には半泣きになった。その芳野が自分の家で寝ている。大地が舞い上がるのも無理はないのだ。  
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加