野良猫はいつもなまいき

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「ちょっと待て大地、俺、」  ________________くらり。  屈んでいた姿勢から慌てて立ち上がった芳野は視界が回るのを感じた。途端、ふっと目の前から色がなくなった。大地の顔が古い写真みたいなセピア色になる。まずい、と思った時には再び膝をついていた。 「芳野?」  返事ができなかった。大地が素早く動いて芳野を支えた。大丈夫、と言おうとしたのに言葉にならず、逆に大地の腕にしがみついていた。暗い穴の底に落ちていきそうな眩暈だ。 「芳野、具合悪いのか」 「違……」  大地の声が頭の真上から降ってくる。しゃがんだままどうしても立てない。大地の手が芳野を掴んでいなかったら体を支えることもできない。 「病院いこう、かかりつけのとこに電話してみる」 「嫌だ、勝手に決めるな。なんで大地はいつもそう強引なんだ。俺は物事は時間をかけて考えて、それから動きたいんだ。なのにお前はいきなりばっかりだから俺はわけがわからなくなって答えが間に合わないんだ」 このままだと大地のなすがままになると思い、芳野は必死にしゃべった。だって真っ青だ、すげえ顔色悪い、と大地が言い募る。その声をじわんとした耳鳴りが邪魔する。 「どっちみちこっからじゃ運べねえな、救急車か」 携帯をいじりはじめた大地の手を、芳野はすがるように引っ張った。 「やめてくれ! この眩暈は違う、寝てないんだ!」 「……あ?」 へたりこんだまま顔だけ上げると、大地がぽかんと口を開けていた。
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