困ったときは甘いもの

2/6

267人が本棚に入れています
本棚に追加
/198ページ
 少し休んで天文台の屋上から降りることができた二人は、しかし、本降りになった雨のせいでそのまま足止めをくらっていた。  館内には入れないが、天文台の入り口には広い屋根付きのエントランスがあり、雨をしのぐことはできる。  濡れた体が冷えるのをおそれた大地は、自分の羽織ってきたパーカーを芳野に着せた。頑丈な大地はこの程度の雨風などものともしないが、みるからに芳野は華奢だ。さっき抱きしめた感触がまだ腕に残っていて、大地はそれだけで滾るものがある。  だらりと袖をたらしたまま芳野は膝をかかえて座っている。  だが、こう見えて長年野外で星の観測を行ってきた芳野は、大地よりよほど『外で待つ』という作業に熟練していた。苛々と雨雲を眺める大地に落ちきはらって言う。 「焦らなくていい。さっき携帯で気象衛星の映像を確認した。この雲はじきに西から東に抜けていく。おそらく一時間もしないうちに雨は止むだろう」 「一時間か……腹減ったな。大丈夫か、お前も食ってねえよな」  起きて揉めて飛び出してきたので二人は何も口にしていない。正確には昨夜からだ。寂し気に胃のあたりをさすった大地に、芳野は一転、嬉々として返事をした。 「空腹なのか! 待て、いいものがある!」 大地が振り返ると、芳野はリックの底から四角いものを取り出した。 「遅ればせながらお土産だ。渡せてよかった。はいこれ」
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加