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「お前、バナナみたいにバクバク羊羹を食いちぎって……普段からこんな食い方してんのか」
「最近な。時々天体観測をしている友人がキャラメルをくれて、甘いものを持っていると長時間の観測の助けになることに気付いたんだ」
「友人?」
大地の眉がぴくりと上がった。
芳野に友人とは聞き逃せない。もともと芳野は静かなる注目を浴びるタイプだが、遠巻きに鑑賞されるばかりで特定の友人はいなかった。
だからチンタラと遠距離恋愛をしていても他人に攫われる心配はないと高をくくっていたのである。
しかし。
天体観測と言えば夜。星空を眺める芳野は最強にキュートでラブリーである(大地的主観)。そんなスーパー可愛い状態の芳野と二人きりで星を見ていたら、その友人が芳野をイイなと思うのは時間の問題ではないか(大地的独断)。
胸中に疑心暗鬼という名の黒い雲が湧きあがった。
くっそ……一度そいつシメるか。
未だかつてそんなモヤモヤした感情を抱いたことのない大地は、闇落ちしかけた自分にぎょっとする。
何考えてんだ、俺。友人がいるのは良いことじゃねーか。キャラメルぐらいちょっと仲良くなれば誰だって配る。俺だって職場でパートのおばちゃんから煎餅だのチョコもらってるじゃねーか。
大地は自らに言い聞かせつつ、芳野に尋ねた。
「ふーん……仲、いいのか?」
「親切だ。それに佐倉は俺に匹敵するぐらい星に詳しい。話が通じやすくて助かる」
芳野が他人の話をすること自体がレアである。ましてこの好感触。
……油断なんねえな。
消えかけた黒い雲がまたもや広がった。星より芳野に詳しくなってもらっちゃ困るのである。
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