困ったときは甘いもの

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 芳野は幸せそうに羊羹を頬張っている。断面から栗が出てくると、目がきらきらする。その嬉し気な表情だけで大地の心は癒される。  そーかそーか甘いものが好きか、砂糖ぐらいいくらでも買ってやる。大地は目を細めて芳野を愛でる。こちらは脳内がスイーツタイムである。  芳野は羊羹をかじかじしながら、さらにリックに腕を突っ込んで、分厚い専門書を引っ張り出した。これもまた四角いが、羊羹よりさらに重い。 「これも大地にやろうと思って持ってきたんだ。ほら」 「新説量子宇宙論大全……? なんだこりゃ」 「暇なんだろ、時間は有益に使え。この本は俺が今年最も感動した良書だ。ダイナミックな仮説と綿密な考証をもとに宇宙の始まりが解説されている。かねてからホイーラー・ドウィット方程式と波動関数については複数の著書で理解を深めたつもりでいたが、この書籍の記述は必読だ。せっかくだから合わせて読みたい宇宙物理学の本もある。ぜひ感想を語りあいたい」  微笑む芳野の手前、大地はちらりと中をみた。なぜか宇宙と名のつく本なのに、目がくらむような数式がぎっちょり並んでいる。勉強がからきし駄目で補習を受けていた身の上としては鳥肌がたつような本だ。  芳野のプレゼントのセンスは絶望的に他者への想像力が欠落している。 「これ……これは後でじっくり読んだ方がいいんじゃねえかな……その、流し読みじゃ勿体ねえだろ」 「そうか? 俺はかねがね量子トンネルにおける恒星の核融合はロマンだと思っていて、その話をしたら佐倉がこの本を勧めてくれたんだ」  違うロマンを進行させたい大地としては苦々しい想いになった。  これもそのキャラメル野郎の差し金か……  俺にはできねーような芳野のツボを押さえて手懐けやがった。ちっ。 大地の警戒人物リストとしてその存在が深くきざまれた。
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