困ったときは甘いもの

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「芳野、濡れたろ。寒くねえか」  気を取り直して、大地はやや青白くみえる芳野の額に手を当てた。大地の指が触れた瞬間、芳野は亀のように首をすくめ、覗き込むと目をそらした。 「これぐらい平気だ。それよりこの天文台、なぜ修理を?」 「町興しで星降る町プロジェクトってのがはじまったんだよ」 「へえ……」 星と聞いて芳野の目がきらりと輝いた。 「星を見るためのキャンプ場や、ツアーも企画してるけど、せっかくあるんだからまず天文台をリニューアルオープンさせようって」 「そうか……再開するのか」 芳野はまだ工事途中の天文台をぐるりと眺めた。大地はその隣にストンと腰を降ろし、あらぬ方向を見ている芳野に言う。 「あのさあ、芳野。やっと一緒なんだからさ俺のことちゃんと見てくんねえかな」 「え」 「追いかけるのは慣れてっけど、もうちょっとくっつきてーな」 「う……」  芳野の瞳がゆらぐ。大地は苦笑いで芳野の頭を撫でた。  人との距離を詰めることは、芳野にとっては難しいハードルなのだろう。それでも大人しく撫でられるようになっただけで格段の進歩だ。  大地はじんわりと幸せをかみしめたが、その間、激しく自省した芳野は胸の中で葛藤していた。そして妙に赤い顔をしてきっぱりと言った。 「わかった。大地の指摘は正しい」 「ん?」 「これまでずいぶん迷惑をかけた。雨が上がったら大地の家に行く」 「お、おう。え、ええっ?!」 芳野は思いつめたいような眼差しで、がぶりと羊羹を噛んだ。
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