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「いざ!」
大地のアパートに戻り、リビングに入るなり芳野は勢いよくパーカーを脱ぎ捨てた。ふう、と息を吐き出し、挑むように大地を見上げる。
芳野は目立って可愛いわけではないが、目はきれいな二重でまなざしは凛々しい。普段はそらしがちなその目が、ひたっと大地を見つめている。狩り直前の猫のような緊張感だ。
なんか甘い雰囲気とは程遠いような……
待ちに待った瞬間だというのに、芳野にロックオンされた大地は気押されていた。
「えーと、芳野、その……かなり無理してんじゃねえか?」
「目を逸らすなと言ったのは大地だろう! 男に二言はない」
言いながら芳野はさっさと自らのシャツのボタンに手をかける。
爪の先が無駄にかりかりとボタンをひっかいている。あまりの不器用さにツッコミそうになって気付いた。あ、違うこれ、震えてんじゃん。芳野はその緊張を気取られたくないらしく、わざと乱暴にボタンをはずしていく。
「俺は人との付き合い方がよくわからない。まして大地との関係は難問だった。だけどずっと考えていた。今後の可能性や不可解な感情の意味合いも熟考した。数年かかったが、その間、時間と距離という障害も意味をなさなかった」
さすが天文学をやってるだけあって悩む時間のスケールが違う。
芳野は完全にシャツを脱ぐと、半裸のままで几帳面にたたみ始めた。ちなみに大地から借りたパーカーは床に落ちたままである。しかし今はそんな細かいことを気にしている場合ではない。
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