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唇が離れると芳野が困ったように目を開けた。
そのまま間を置かずに口づけする。芳野は拒絶こそしないものの、真一文字に唇を固く結んでいる。大地はいたずらっぽく笑った。
「そうじゃねえよ」
「んぐ?」
「開けんだ」
大地は人差し指の先を芳野の唇に滑り込ませる。濡れた歯をなぞると芳野がさらに戸惑いの表情になった。頬を固定して奥まで指を入る。ギザギザした歯の尖りがいかにも芳野らしい。
「噛むなよ」
大地に言われるまま、緩めた口元から指を引き抜き、もう一度唇を重ねた。今度は深い。
「……っ」
いつも素直じゃないことばかり言う口が、大地に押し入られて言葉を失う。舌先で内側の粘膜をさぐっていると甘く唾液が交じり合っていく。芳野が苦し気に呻いた。
「だ、……いちっ」
「何だ?」
少しだけ離れる。それすら寂しくて耳の裏側に唇を添わせた。いつも隣でみていた美しい耳の形。やっと味わえる。芳野はどこもかしこも柔らかい。
「……息、つら……」
「てか、息止めねえでいいんだけど」
大地は芳野の耳朶を甘嚙みした。痺れたように芳野の背中が反った。恨みがましい目で大地を睨む。
「……み、みみ、は、駄目だ!」
「じゃ、どこがいい」
「そんなの知るか、馬鹿!」
「じゃ俺に任せるってことだな」
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